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受験メンタルに沁みわたる『菜根譚』

受験で大切なのは、いかに折れない心を持てるか、ではないでしょう。

 

折れたことのない心ほど脆いものはありません。どんだけ折れても立ち上がる心を持てるかの方がよほど大切であります。折って、直して、頑丈な精神を育んで、挑んでいくのが常道です。
 
そうだとして、何によって傷付きへばった精神を奮起させるか。私は、全ての受験生に『菜根譚さいこんたん』を推したい。
 
『菜根譚』は、500年くらい前の中国は明で生まれた書です。道教と儒教と仏教とがいい感じでミックスされた処世訓。人のメンタルってのはテクノロジーと反比例して脆弱になっていくのか、訓辞は古ければ古いほど素直に沁み渡っていきますね。ベジタブルの滋味でしょうか、噛み締めるほど味わい深い。
 
以下、洪自誠『菜根譚』より余韻を残す数篇を抜粋。訳は私が適当につけています。
 
前集五十八
 
苦心の中に、常に心をよろこばしむるの趣を得。
得意の時に、便すなわち失意の悲しみを生ず。
 
ーー
 
懸命に努力しているときでも、心を喜ばせるものを見つけることだ。
望みを遂げたときにこそ、すぐにも悲しみが生まれてくるものだ。
 
 
窒息しそうな受験勉強のなかにも喜びを見つける、そして合格したときに慢心しない、これが難しいが大切なことなんでしょう。
 
そして、望みがあるってのはその人生に意味があるってことで、それを追える環境があるってのは、叶えたとき以上に幸せな状態にあるのかもしれません。
 
前集七十四
 
一苦一楽、あい磨練し、れん極まりて福を成すものは、その福始めて久し。
一疑一信、相参勘さんかんし、感極まりて知を成すものは、その知始めて真なり。
 
ーー
 
苦しんだり楽しんだり、紆余曲折の先に得られる幸福こそ、永く続くものだ。
疑ったり信じたり、苦心を重ねて考え抜いた知識こそ、本物になるものだ。
 
短期合格だけが正義ではありません。数年の苦労を経た合格はその分だけの価値があります。客観的で、合理的な価値観だけで測れば、人生はひどく味気ないものになるでしょう。俺の人生は俺が測る、誰一人くちばしを挟むな、そういう心意気があってもいいでしょう。

また、講義では、講師の論を呆然と受け身で丸呑みするのでなく、批判的・懐疑的・主体的に拝聴して、質問として講師に疑念をぶつけていくほうが、吸収は早く知識は深いものとなっていくことが示唆されています。
 
前集八十
 
未だらざるの功を図るは、すでに成るの業を保つに如かず。
既往きおうしつを悔ゆるは、将来の非を防ぐに如かず。
 
ーー
 
成し遂げていない事にあれこれ焦がれる前に、いま打ち込んでいることをこつこつ続けることだ。
過去の失敗をあれこれ悔やむよりは、将来の失敗をどう防ぐかに思いを寄せるべきだ。
  
果たして来年は受かるのだろうかという無益な問いの前にやるべきことがあるはずです。不合格だったことを悔いるより、次の不合格を避けるため何をすべきか、思考を費やしたい。
 
前集九十九
 
逆境の中に居らば、周身皆鍼砭薬石しんべんやくせきにして、節をぎ行いをみがくも、しかしてさとらず。
順境の内にらば、満前尽く兵刄戈矛へいじんかほうにして、こうかし骨をらすも、しかして知らず。
 
ーー
 
逆境のなかでは、周囲の環境がすべて鍼や薬となって知らずに心身が磨かれているものだ。
順境のなかでは、眼前には無数の刀や矛を突き付けられていて知らずに骨身が削られているものだ。
 
逆境のときは心身が消耗し、順風満帆のときに心身が満たされていると思いがちであります。しかし、逆境は自分を成長させる恰好の試練でもあって、逆に、順境は自身の努力や意欲を減衰させる毒でもあるということです。苦境こそ糧ということでしょう。
 
前集百十四
 
小処しょうしょ滲漏しんろうせず、暗中に欺隠ぎいんせず、末路に怠荒せず。
わずかに是れ個の真正の英雄なり。
 
ーー
 
 小さなことにも手を抜かず、誰も見てないからと欺くこともなく、
 落ち目のときにも荒れたり投げやりになることもない。
 こんな人こそが正真正銘の英雄なのである

 

受験は、気の遠くなるほどの日々の積み重ねであって、孤独な闘いです。それでも、誰に見られるわけでもなくとも、欺瞞を重ねず真摯に取り組み続けた者だけが陽の目を浴びる資格をもつのです。

 

前集百十七

 

横逆困窮おうぎゃくこんきゅうは、是れ豪傑を鍛煉たんれんするの一副いっぷく鑢錘ろすいなり。
能く其の鍛煉たんれんを受くれば、即ち身心こもごも益す。
其の鍛煉たんれんを受けざれば、即ち、身心こもごも損す。

 
ーー
 
災難や逆境は、豪傑を輩出する溶鉱炉のようなものだ。 
その鍛錬を受ければ、心身が充実するし、
受けなければ、出来損ないになる。

 

なぜこんなことをやっているかと自問自答して立ち止まりそうにもなりますが、これは自分を一回り大きくするための試練で、他ならぬ自分が決めた道だと肚を決め直し、邁進していくしかないのですね。

 
前集百九十九
 
払意ふついうれうことなかれ、快心を喜ぶことなかれ。
久安きゅうあんたのむことなかれ、初難しょなんはばかることなかれ。
 
ーー
 
思い通りにならないからと凹まなくていいし、思い通りになったからと喜びすぎることもない。
いつまでも安泰でいると思ってはならないし、最初の困難にビビりすぎることもない。
 
勉強をし始めた頃は、テキストや過去問の分厚さ、理解不能な用語や概念が立ち塞がって尻込みしてしまいますが、それも当然です。丸呑みせずに、遠回りのようで、自分がわからない部分は何なのかを一つずつ紐解いていくのが合格への近道です。模試の結果にも一喜一憂しすぎることはありません。
 
前集二百一
 
世人せじんは、心のうけがところを以て楽しみと為し、却って楽心らくしんに引かれて苦処くしょに在り。
達士たっしは、心のもとところを以て楽しみと為し、終に苦心を楽しみに換え得て来たると為す。
 
ーー
 
世俗の人は、心が満足することを楽しみとするので、楽しみを求めようとして却って苦しむことが多くなる。
一方で、達人は、思うままにならないことを楽しみとするので、苦労をしてもそれを楽しんでしまうことができる。
 
人生は思い通りにならないことばかりで、受験という局所に限ればそれは尚の事。それでも、大きな目標を掲げて挑む自分を鼓舞し、日々一歩ずつでも前進していくことに充実を感じていくのが大切です。
 
ーー
 
以上、これを読んだ方が噛みしめて、もう一度立ち上がる気力になれば幸いです。
 
菜根譚 (岩波文庫)

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