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司法書士受験生が法科大学院経由で弁護士を目指すべき理由

今回は、司法書士試験2年目以降の受験生は、法科大学院(ロースクール)ルートからの法曹(弁護士、検事、裁判官)も将来の選択肢として考えてみてはどうかという趣旨の記事です。

 
現在、法曹になるためには、司法試験に合格しなくてはなりません。そして、司法試験の受験資格を得るためには、法科大学院を卒業するか、予備試験に合格するかのどちらかが必要となります。後者の予備試験の合格率は3%前後と司法書士試験と同様に狭き門です。しかし、法科大学院への入学と卒業はそこまで狭き門では決してありません。
 
今、法曹を目指すべき理由と、司法書士受験生にロースクール受験を薦める理由とを列記しました。
 

今、法曹を目指すべき理由

 

(1)法科大学院の志願者激減

 
1999年以来の司法制度改革によって、法曹界の人口増を図るべく法科大学院は創設されました。これまでの司法試験(いわゆる旧司法試験)の狭き門が一挙に拡がり、弁護士、検事や裁判官になりたい受験生が法科大学院へ押し寄せました。しかし、その後、新司法試験の合格率の低迷、法曹人口増大による就職難や年収減少、法曹となるまでの時間的・経済的負担の増大によって、法曹を目指す魅力が低下し、右肩下がりで法科大学院の志願者は減少していきます。
 
法科大学院創設の2004年には72,800人いました法科大学院の志願者が、2017年には5,133人にまで減少しました。志願倍率は13倍あったものが3倍となり、また、入学者における社会人の割合は50%弱あったものが20%にまで低減となる等、人気の凋落は顕著です。2016年は45校中43校で定員割れを起こしており、2017年度、当初74校あった法科大学院は廃校や募集停止で今や43校にまで減少しています。
 

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しかし、これは逆に考えれば、この上なく法科大学院へ入学しやすい時代であるとも言うことです。後述しますが、法科大学院入試の合格率は右肩上がりで伸びています。
 
司法制度改革はメディアや有識者から文部科学省の失敗と言われており、これから新司法試験は徐々に旧司法試験の形式へ逆行していくかもしれません。法科大学院を完全撤廃し、旧司法試験の形式に一本化することは無いにしても、行政から何らかのテコ入れは入るように思います。それによって、志願者を増やすか、門戸を狭めて合格者の価値を上げるかの施策が打たれるであろうと推測されるので、それを踏まえても現状のこの制度で法科大学院を経由して法曹を目指すことの価値は高いと考えています。
 
 

(2)研修が給費制に

 
司法試験の合格者は、司法修習という1年間の研修を受けることになります。司法修習は無給であり、副業が禁止されています。そのため、以前は生活保障費用として司法修習生に対し、月額約20万円が支給されていましたが、2011年の司法制度改革以降、財政難を理由に司法修習生への給費制は廃され返済義務のある貸与制が採られるようになりました。
 
しかしここにきて、近年の法曹志望者の減少を深刻に受け止めたのか、2017年度の司法試験合格者から給費制を復活させ、司法修習生に対し月額13万5,000円を支給することが決まりました。賃貸借が必要な修習生に対しては、これに加えて住宅給付金として月額3万5,000円の支給がなされます。
 
 
なお、司法書士も合格後は、書士会によって日数は異なりますが30日から60日程度の配属研修があります。もちろん無給であって、給費制に類するものはありません。
 

(3)適性試験が任意に

 
適性試験とは、大学入試におけるセンター試験のような位置づけの基礎の学力を計る試験です。法科大学院へ入学する際にはその受験が必須であり、上位校では足切りの点数が設定され、その得点以上でなければそれだけで受験資格が無くなるという厄介なものでした。
 
適性試験で問われる内容は、法律知識に直結するものではなく、論理的思考力などを計るものであって、その実効性には各方面から疑問の声が上がっていました。受験料は1回2万円と高く、司法書士試験の直前期の6月に2回開催されるため、司法書士試験の受験生にとっては受験するにはハードルが高いものでした。
 
しかし、この適性試験が、2019年度入試(2018年度から実施のもの)から各大学院の任意に利用を任せることになりました。おそらく、多くの法科大学院が、受験生確保のために適性試験の成績提出は不要にするのではないかと推測されます。法科大学院へ入試するハードルが一つ減ったと言えるでしょう。
 
 

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司法書士受験生にロースクール受験を薦める理由

 

(1)合格率

平成28年の司法試験合格率は22.9%で、一方、同年の司法書士試験合格率は3.9%でした。もちろん母数の質が異なるので単純な比較は出来ませんが、数字だけを見ればその差は歴然です。
 
また、先に上げた司法試験の合格率は、予備試験の合格者であれば約60%、東大や一橋などの上位のロースクールであれば約40〜50%まで跳ね上がります。
 
予備試験の合格自体は例年約3%と司法書士同様に狭き門ですが、ロースクール入学の門戸は広く開かれています。東大のロースクールでさえ倍率2倍程度です。
 
つまり、上位のロースクールに入学して、質の高い教育を受けて志の高い仲間と切磋琢磨すれば2人に1人程度は一発で合格していくということです。そして、累積での合格率は東大や一橋であれば8割前後あります。
 
司法試験は文系の最難関資格と昔から言われてます。確かに試験で要求される能力自体は間違いなく最高峰です。しかし今、その合格のしやすさは、かつての旧司法試験や司法書士試験とは比べものにならないほど、高い数値を示しているのです。
 
↓上位ロースクールの入試合格者率の推移

 
↓司法試験と司法書士試験の合格率の推移

 
 

(2)不合格時の保険に

 
司法書士試験はある程度は運の要素が強い試験だと思います。どれだけ過去問を徹底的に学習したところで、未出の論点や新たな傾向問題によって、あっさりと基準点を下回ることがあります。1年の努力もその努力の方向が違えば、たやすく水泡に帰してしまうのです。それではあまりにも虚しいでしょう。
 
そこで、司法書士試験に仮に落ちたときの保険として、ロースクール入試を選択肢に入れておくことをお薦めします。別の選択肢を持つことで、余裕をもって受験に取り組むことができますし、試験終了後もその手応えによって進路を軌道修正していくことが可能になります。
 
たしかに法科大学院ルートで法曹を目指すとなると、これから3年、4年とさらに年月を受験勉強に費やすことになります。これが一つのハードルです。
 
しかし、司法書士試験は不合格になったからと言って、あともう1年やれば受かるとは限らない試験です。エール出版の合格体験記など見ると、4回、5回、6回と何度も受験したうえで合格を勝ち取った方が多く見受けられます。つまり、司法書士試験を目指す道が、必ずしも法曹を目指す道よりも短いとは限らないのです。
 
法科大学院を併願することで、司法書士試験の一発勝負を毎年毎年繰り返す修羅の道から外れて、法科大学院へ入学して司法試験を目指している間に、司法書士受験も継続していればその内に合格するだろうというスタンスを取ることも可能になります。
 
幸い、ロースクール入試は、7月の司法書士試験終了後の8月(私立)、11月(公立)に行われるので、タイミング的にもちょうどいいものになっています。
 

なお、一部の上位のロースクール以外は定員割れを起こしているので、上記スケジュール以外に二次募集をかけることもあります。
 

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(3)司法書士試験の対策に

 
例えば、すでに司法書士の基本テキストを何度も読み込んで過去問も10周以上回して模試でS判定も出て合格レベルにあったにも関わらず運がなく不合格となった場合、また1年間同じ勉強を繰り返すのははっきり言って勿体ないし、退屈なものにしかならないでしょう。
 
司法書士試験と司法試験は共通科目が多くあります。民法、憲法、刑法、商法(会社法)、民事訴訟法の5科目です。特に、民法、商法(会社法)は司法書士で学んだ範囲とほぼ重なります。
 
司法試験やロースクール入試の勉強は、条文の趣旨を理解して、要件と効果を判別して、判例の射程を掌握し、事例問題に当てはめて結論を出して答案を作成するという形を取ります。講義を聴いたり、答案を構成していくなかで、今まで点で覚えていた知識を線でつなげる感覚を得ることができます。司法書士試験の過去問を延々と回しているだけでは決して得られない感覚です。そして、ここで養われる知見は司法書士試験の得点にもそのまま還元されます。条文や判例の理解が進み、択一問題を解きやすくなるのです。
 
また、後日に別記事で言及しますが、司法試験の論述問題だけでなく短答問題を解くことも、司法書士試験の得点の上乗せに繋がります。
 

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まとめ

 
司法書士試験の受験生がロースクール入試を選択肢に加え法曹の道を射程とするには、年齢、金銭的負担や資格取得までの期間、学習量や自身の知力等、不安視する要素も多々ありますが、以上のような好材料もあります。
 
自分には無理と一蹴せず、一度検討して頂ければ幸いです。
 
私が弁護士になるまで (文春文庫)

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